アルカリフリー液体急結剤
シグニットL53AF(JP-A)
を使用した乾式吹付工法
- 東友エンジニアリング(株)
- 日本シーカ(株)
トンネル工事の吹付けコンクリート用急結剤としては、アルミン酸化合物を主成分とする粉体急結剤が広く使用されています。しかし強アルカリ性の粉体急結剤は、皮膚に付着あるいは体内に吸い込まれると非常に有害です。またコンクリート中に充分混ざることなく空気中に発散する粉体は浮遊する粉塵となり、作業環境を悪化させています。平成30年には、従来の粉体急結剤の主成分である「アルミン酸ナトリウム」が劇物に指定されることが決まっており、各現場において適切な措置を講じる必要が生じています。
「シグニット®-L53AF(JP-A)」は新しいタイプのアルカリフリー液体急結剤です。吹付けコンクリート施工時の粉塵発生を低減することで作業環境の改善を図ることが可能になるとともにリバウンド量の低減が可能です。特に乾式吹付工法(あらかじめ空練りされたセメント・細骨材・粗骨材を空気圧送し、吹付ノズル近傍で水と急結剤を添加する方法)で液体急結剤を使用すると、容易に水セメント比を低減することができるため、従来のアルカリフリー液体急結剤使用時の課題とされていた初期強度を改善することが可能です。すでに複数の現場に適用され、高評価が得られています。
プラントでセメント、細骨材、粗骨材を空練りした状態。骨材の水分でセメントも適度に湿るため、吹付け施工時にセメント粉が浮遊することはありません。
ノズル先端付近で、練り混ぜ水と液体急結剤を添加して、勢いよく吹き付けます。
1. 乾式吹付工法の特長
シグニット®-L53AF(JP-A)を使用する乾式吹付工法の主な特長は以下の通りです。
特長
- 粉体急結剤使用時と比較して、粉塵を低減できます。
- 急結剤は弱酸性のため人体への悪影響が少なく、坑内の作業環境が改善できます。
- ノズル先端での混合水量を絞ることで、水セメント比の低減(高い初期強度確保)が可能です。
- 高強度領域の吹付け(たとえばC:450kg/㎥)においても、混和剤は必要ありません。
- 粉体急結剤使用時と比較してリバウンド量を低減できます。
- 粉体急結剤と比較して急結剤タンクへの材料補充が容易で、補充時の粉塵も発生しません。
- 急結剤の精度良い計量が可能で、吹付けコンクリートの品質が安定します。
- ホッパーや配管内の清掃が簡単で、洗浄水なども発生しません。(高圧エアーのみの清掃可能)
- 急結剤容器(1000ℓ コンテナ)は再利用できるため、廃棄物の発生を抑制できます。
- 設備が簡単であり、小規模現場への適用も可能です。
-
液体急結剤での吹付け状況
(粉塵は少なく視界良好) -
粉体急結剤での吹付け状況
(粉塵の影響で視界不良)
特徴の比較一覧表
液体急結剤 乾式吹付工法 (アルカリフリー) |
液体急結剤 湿式吹付工法 (アルカリフリー) |
粉体急結剤 湿式吹付工法 (セメント鉱物系) |
|
---|---|---|---|
初期強度 | ○ | △ | ○ |
28日強度 | ○ | ○ | ○ |
リバウンド | ○ | ○ | △ |
清掃性 | ○ | △ | △ |
発生粉塵 | ○ | ○ | △ |
人体への影響 | ○ | ○ | × |
環境への影響 | ○ | ○ | △ |
扱い易さ(計量) | ○ | ○ | △ |
2. 製品データ
液体急結剤 シグニット®-L53AF(JP-A)は、粉末状の製品 シグニットP10AFを水に溶解することによって製造されます。両者の製品データは以下の通りです。
通常は、トーユーサービス(東友エンジニアリングのグループ会社)が シグニットP10AFを専用設備で溶解してシグニット®-L53AF(JP-A)を製造し、1000ℓ コンテナ仕様で現場等に納入されます。
シグニットL53AF(JP-A)の製品データ
項 目 | 内 容 |
---|---|
主成分 | アルミニウム化合物を主成分とする特殊無機材料 |
外観 | 液体 |
密度 | 1.4〜1.6g/㎤ |
pH | 3.0±0.5 |
粘度 | 200mPa・s未満 |
アルカリ含有量(Na2O当量) | 1%未満 |
塩化物イオン量(Cl−) | 0.1%未満 |
保存期間 | 5〜30℃の温度で密閉した状態で保管して5ヶ月 |
荷姿 | 1000ℓ コンテナ、タンクローリー |
シグニットP10AFの製品データ
項 目 | 内 容 |
---|---|
主成分 | アルミニウム化合物を主成分とする特殊無機材料 |
外観 | 白色〜灰白色粉末 |
pH | 3.0±0.5(50%水溶液) |
保存期間 | 5〜30℃の温度で密閉した状態で保管して36ヶ月 |
荷姿 | 600kg/フレコンバッグ |
- 溶解タンクへのP10AFの投入
- 水への溶解(溶解時間:約45分)
3. ベースコンクリートの配合および急結剤添加率
(1)ベースコンクリートの配合
アルカリフリータイプの液体急結剤「シグニット®-L53AF(JP-A)」を乾式吹付工法に使用した場合には、粉塵の低減、リバウンドの低減、適切な強度確保等のメリットが得られますが、それらのメリットを最大限に発揮させるためには、ベースコンクリートの配合や急結剤使用時の各種条件を満足させることが重要となります。以下に、適切な吹付け施工を達成するための配合等の条件を示します。
- コンクリートの水セメント比は45%以下
-
単位セメント量は、360kg/㎥以上
ただし、骨材品質が良好であれば単位セメント量360kg/㎥でも良好な吹付けが可能ですが、骨材品質(粒度分布、表面水率など)に起因するコンクリート性状の変動を考慮し、できるだけ単位セメント量400kg/㎥以上でご検討下さい。 -
練り上がりコンクリートの温度は15℃以上
吹付け直後に適切な初期強度確保を確保するため、適切な温度管理を行ってください。 - 粗骨材は、8〜15mmのサイズを使用
以下は、乾式吹付工法に液体急結剤を使用した際の配合例です。
コンクリートの配合例
@ 一般的な吹付け配合
水セメント比:45.0%、単位セメント量:360kg/㎥
W/C (%) |
s/a (%) |
単位量(kg/㎥) | 急結剤 添加量 (C×%) |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
C | W | S | G | |||
45 | 60 | 360 | 162 | 1118 | 783 | 8〜12 |
A 高強度吹付け配合
水セメント比:40.0%、単位セメント量:450kg/㎥
W/C (%) |
s/a (%) |
単位量(kg/㎥) | 急結剤 添加量 (C×%) |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
C | W | S | G | |||
40 | 60 | 450 | 180 | 1045 | 732 | 8〜12 |
(2)急結剤添加率
良好な急結性を確保するためには、適量の急結剤を設定するとともに、安定的な供給が可能な急結剤添加装置を使用する必要があります。
急結剤の添加量は、予備試験によって決定して下さい。通常の吹付けコンクリートでの添加量は、 セメント重量に対して8〜12%程度です。また、法面保護工および深礎(垂直面)のような吹付 けコンクリートでは5〜8%程度です。
- コンクリート吹付機(PM−500)
- 吹付け試験機のホッパー部
- 急結剤添加装置
- 液体急結剤タンク
- 液体急結剤と水を混合するシャワーリング
- 吹付試験状況(試験体採取)
- 現場プラント
- ミキサー(セメントと骨材の空練りのみ)
- 吹付機への急結剤の補充(非常に容易)
- ミキサーからベルコンでホッパーに供給
- 坑内の吹付機
- 吹付施工状況
- 吹付施工状況
- トンネル内の仕上り状況
4. 技術データ
(1)初期強度発現のメカニズム
液体急結剤を使用する乾式吹付工法における初期強度の発現性状を下図に示します。コンクリート吹付け直後より2時間程度までの強度増進は、主としてエトリンガイトが生成されることによる急結作用です。その後、材令3時間以降に急激に強度が増加しますが、これはセメントの水和反応による作用です。吹付けコンクリートの強度はこの2種類の強度発現の合計となります。従来の急結剤では、水和反応が始まるまでの所要時間が長い傾向にありましたが、シグニット®-L53AF(JP-A)では、材令3時間程度より水和反応が順調に始まるように改良を行っています。
(2)吹付けコンクリートの強度物性
あらかじめ練り混ぜたコンクリートにノズル先端で急結剤を添加し、数分〜28日の期間で測定した強度結果を示します。材令1時間までの強度に関しては、急結剤添加量が多い方(C×8%)が少ない方(C×6%)と比較して30%程度大きな強度が得られています。材令3〜24時間に関しては、急結剤の添加量にかかわらず、ほぼ同等の高い強度が得られています。
コンクリートの配合
W/C | s/a | C | W | S | G | FA | 混和剤 | スランプ (cm) |
空気量 (%) |
コンクリート 温度(℃) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
46.4 | 59.5 | 420 | 195 | 950 | 653 | 60 | C×1.3% | 22.0 | 2.2 | 26.5 |
圧縮強度測定結果
急結剤xx | 圧縮強度 (N/㎟)※ | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
超初期強度測定用ピン貫入 | プル アウト |
ピン 貫入 |
コア強度 | ||||||||
5 分 | 10 分 | 20 分 | 30 分 | 40 分 | 60 分 | 3 時間 | 6 時間 | 24 時間 | 7 日 | 28 日 | |
シグニットL53AF(JP-A) Cx8% | 0.39 | 0.54 | 0.69 | 1.00 | 1.03 | 1.31 | 1.52 | 3.90 | 13.9 | 32.0 | 39.4 |
シグニットL53AF(JP-A) Cx6% | - | 0.42 | 0.51 | 0.60 | 0.71 | 0.90 | 1.57 | 4.03 | 16.1 | 39.6 | 41.4 |
※材令5分〜24時間強度は、超初期強度測定(AFG1000N)、プルアウト、ピン貫入試験結果より推定
- 超初期強度試験(AFG1000)
- プルアウト試験
- ピン貫入試験